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講師の大嶋優さん
(関西学院大学フランス語
講師・翻訳家)

思い込みが外れて見えてくるハーモニー 

第21回大嶋講座映画レビュー『ムッシュ・カステラの恋』(1999年、監督アニエス・ジャウィ )


――記者のレポート       
>>>参加者 吉田さんのレポート



社長のカステラ氏 英会話のお勉強中

◆趣味やセンスの違いで何故もめる?

人は、色眼鏡で人を見ていることになかなか気づけない。そして人間関係をややこしくさせる。そんな誰にでもある日常をコメディータッチで描いた作品が今回大嶋さんが取り上げた映画『ムッシュ・カステラの恋』だ。そんな記者の視点で映画を紹介してみたい。

「カステラ」は、お菓子ではなく、中堅企業の叩き上げの社長さんだ。教養はなく、外見もオヤジ風で格好いいとは言えないが
、どこか憎めない「いい人」肌。その社長が、女優に恋をするというちょっと可笑しな物語でもある。社長を取り巻く人間関係に、人を見る「色眼鏡」が仕掛けとなって、ドラマは展開していく。

それでも、人の正直な行為には心が動き、自分の思い込みにふと自分を振り返るものだ。オセロの石を引っくり返すように、一つ一つ誤解が解けて、最後はハッピーエンドに。

趣味やセンスの違いから起こる日常の悲喜交々を映画のスクリーンで見つめてみたら?さて、どうなるか。


まずは 講座の方から――

◆他人は自分ほど気にしていない

大嶋さんは、フランス語の原題『le gout des autres』 について説明した。
直訳すると「他人の好み・趣味」、あるいは、「他人への興味・関心」、または、「他人の肉を食べる」「他人の味」という意味もあるらしい。「ここでの意味はどれだと思いますか?」と逆に投げかけて次へ。

監督は女性で、映画の中にもマニー役として出演しているアニェス・ジャウィだ。魅力的な女性で、そのジャウィと主演のバクリが夫婦でもあり、脚本を手がけたという。なるほど、映画を見れば納得出来る。女性心理、男性心理の両面から巧みに作られたシナリオを感じてしまう。


ボディーガードの二人とカステラ氏

更に、大嶋さんの解説では、設定にはやや誇張があるという。社長を警備する二人のボディーガードが登場するが、「中堅企業の社長にボディーガードは珍しい」と。ところが、この二人が脇役となって、別の人間関係を展開させる。男同士のエスプリのきいた対話や、二人を取り巻く人間模様は、本筋にシャドーのように付き纏い、社長と女優の表舞台を引き立てる。社長と婦人の関係、婦人と社長の妹との関係、いずれも趣味が合わずに揉め事になる。互いの心のズレ、趣味のズレ、思い違いがストーリーを面白くする。

◆髭オヤジが女優に恋の告白!


舞台女優のクララ

社長のカステラ氏は、秘書に言われて英会話の勉強を始める。英語教師としてやって来たのが、舞台女優でもあるクララという40歳の独身女性だ。麗しいほどの美貌ではないがその彼女に恋をしてしまう。というのも、たまたま行った観劇にクララの演ずる姿を見て、思わず一目惚れ。


カステラ氏は、クララの劇団仲間と会話を楽しむが、周りからはバカにされていることにも気づかない。

そして、クララに近づこうと彼女の仲間の芸術家連中とも付き合いはじめる。無教養なカステラ氏は、そんな彼等と食事をしながら会話を楽しむが、無学ゆえにバカにされていることすら気づけない。気前よくみんなの夕食代を払ったりする。画家の個展では絵画を購入する。しかし、周りからは、芸術も分からないくせに、と見られてしまう。クララから「口髭は嫌いよ」と聞けば、早速剃ってしまうという潔い面もある。

そしてある日、英語でクララに恋を告白する。
この場面は、カステラ氏の真摯な態度に緊張感も高まる。
しかし、クララはお呼びでない。いい迷惑だ。趣味も好みもタイプも違うカステラ氏にクララは嫌悪感さえ抱いているからだ。


髭を剃ったことを気づいてくれない

カステラ氏は、失恋気分で項垂れる。髭を剃ったことすら気がついてもらえなかった。ボディーガードも然り。言葉にして始めて、「あ本当だ、髭がない」と言われる始末だ。他人は自分ほど、関心を持ってくれないものだ。

カステラ氏は、個展で買った絵画を壁画にして会社の玄関に設置しようという大それた計画を立てる。そのことがクララには、人のよい社長を利用して、大金を巻き上げようとしている仲間たちの企みだと考える。「私への好意がカステラ氏をそうさせているなら私にも責任がある」とクララは思う。そしてカステラ氏に忠告する。「あなたは騙されている」と。



カステラ氏は、クララの忠告を受け付けない。「自分が絵を買ったのは、絵を気に入ったからだ。決して“いい格好するため”ではない」と話す。クララはカステラ氏の正直な言葉に、自分の思い込みに目を向ける。

クララは、次の舞台の初演にカステラ氏を招待する。カステラ氏への見方が変わったようだ。毛嫌いしていた髭オヤジに好意を感じ初めたのか…

幕が開き舞台裏からカステラ氏の姿を観客席に見つけようとするが、見当たらない。
記者もクララの気持ちに引き込まれ、やや残念な気分になった。
スクリーンではクララがピストルを持ち自殺を諮る場面に――。え!まさか!上演中に思い悩んで自殺してしまったのか、とも見えてしまう(こういう思い込みを誘うトリックもこの映画の仕掛け?)。しかし、それは舞台上の演技だとすぐに分かる。終演を迎えた時、ようやく客席にカステラ氏の姿を見つける。クララは舞台上で飛び切りの笑みを浮かべ、カステラ氏に応える。二人の気持ちが通じ合えたという安堵感と喜びをこの時記者も共有した。

◆自分のコンプレックスで人を見ている

クララの忠告によって、 カステラ氏も自分自身の見方を振り返ったにちがいない。それは秘書との会話で明かされる。

普段からカステラ氏は、超エリート秘書の言葉遣いが鼻について気に入らない。とうとう「社長とは合わないから」と辞表を差し出されてしまう。秘書は、「言葉遣いを直そうと努力したが出来なかった」と話す。カステラ氏は、「自分はバカにされていると思い込んでいた」と打ち明ける。裏を返せば、エリートに対するコンプレックスの現れでもある。そのことに気づいたカステラ氏は、素直に「私が間違っていた。辞めないでくれ」と謝る。その態度にコンサルタントも思い直す。

人は、なかなか理解し合えるものではない。その大きな原因が自分の色眼鏡で人を見て、判断しているからだろう。色眼鏡や思い込みは、自分の好みや趣味、感覚や、経験から来るものだろうが、自分ではなかなか気づけるものではない。
しかし、その眼鏡が外れた時、ふと、もっと正直なものに出会うものでもある。

◆一人の真実に触れると…


ボディーガードのモレノ

ボディーガードのモレノは、元警察官だ。同僚のカメ刑事と大物政治家を追っていた。ところがある日捜査が打ち切りとなる。政治家による賄賂が働いたらしい。モレノは、その経緯に反発し退職する。残ったカメ刑事を腰抜けヤローと決めつける。ところが、ある日政治家逮捕のニュースが届く。カメはその後も政治家の捜査を続けていたのだ。
モレノは自分の思い込みにはたと気づく。そして、モレノには、マニーという薬(ヤク)のバイヤーをしている恋人がいるが、正義感から、彼女の行為が認められないでいた。カメ刑事の一件を知ると、彼女とも別れる決意をする。



モレノの恋人マニー

◆そこには心地よいハーモニーが

他者をどのように見ているか、そして自分自身も… 思い込みが外れた時、他者と溶け合う世界が展開する。

そして映画のラストは、ボディーガードのブリュノが楽団仲間とフルートを奏でるシーンへ。
ブリュノは、毎晩一人でフルートの練習に励んでいた。時に上手く音が出せずに投げ出すこともあった。そのフルートの音が、仲間との合奏に溶け込んでいく。息を合わせ、音を合わせ、響き合い、一つハーモニーとなる。心地よい世界を奏でる。

とても気持ち良い終わり方だった。誤解から融和へ。作品の願いなのだろうか。

解説の時に、大嶋さんが、「映画のそれぞれの人物、皆さんはどの方に似てるでしょうか?」とあったが、自分と重ね合わせても面白いものだ。

映画は、人の変わり目の一瞬を捉えたドラマだったが、その後どうなっていくのかは、見た人の想像に委ねられる。社長は妻と離婚し、女優と結婚するかもしれないし、ところが結婚してみて、やはり趣味の違いで喧嘩別れとなるかもしれない。自分の色眼鏡に気づけても、なかなかそれを外せるものでもない。いつしか、自分は自分、人は人と、溶け合えないもので離れたり、また、近づいたりを繰り返すのだろう。

人と人、自己と他者… 溶け合って豊かなハーモニーを奏でるか、あるいは、障壁のままギクシャク生きるか、生き方はそれぞれだろうが……
そんな人の生き方について、映画を題材にもっと考えてみたいという方、
是非、このオオシネマカフェにお越し下さい。(記事:いわた)


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