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父権主義への回帰?@ A 

映画 『マルセルの夏』(1990年、監督イヴ・ロベール)

映画を通してフランスの歴史を知る 第13回 《3月24日》 



        講師の大嶋優さん(関西学院大学フランス語講師)

1900年代、南仏プロヴァンスの大自然を舞台に繰り広げられる映画『マルセルの夏』。詩情豊かにほのぼのとした家族愛に包まれて育つ少年マルセルの体験が描かれたヒューマンドラマだ。というと、昔を懐かしむようなノスタルジックな映画なのかと思いがちだが…。

この 映画の背景を大嶋さんから聞くと、これまた、目からウロコ、日本人の常識観に気づかされてしまう。何も知らずに見たとしてももちろん楽しめる作品だが、その背景を知って見ると日本とフランスの違いが分かり、自分の常識観が垣間見えたりする。この辺がこの講座の面白さでもある。

まずは、吉田順一さんのレポートから紹介しよう。(いわた)


主人公のマルセル、9歳。


一編の詩の朗読から

今回、映画の中にも出てくる詩の朗読をさせてもらった。2週間程前に大嶋さんから中井さんのところに送られ、それを僕に送ってもらったものだ。家で何度となくこの詩を読んでみた。
「なんとなく堅苦しい詩だなあ」というのが最初の印象だった。何度か読み返してゆくうちに、一体この詩が読まれる背景となる社会、人間同志のつながりはどんなものなのだろう?と、講座の前からすこし関心が湧き出していた。


マルセルの父ジョゼフは教師。授業でラ・フォンテーヌの詩を朗読するシーン

 ラ・フォンテーヌ寓話  今野一雄訳

   農夫とその子供たち

 骨折って働くがいい。
 それがなによりまちがいのない元で。
 ある富裕な農夫は、死が近いことをさとって、
 子どもたちを呼び寄せ、ほかに人がいないところで語った。
 「ご先祖さまが残してくれた 土地を
 売るようなことはせぬがよい。
 宝が隠してあるのだ。
 場所はどこか、わしは知らぬ。だがすこし根気よくやってみれば、
 みつかるだろう、探しだせるだろう。
 取り入れがすんだらすぐに、畠の土をひっくりかえせ。
 堀りかえし、鋤きかえし、深く掘り起こして、どこもかしこも、
 なんべんも、あたってみるのだ。」
 父親は死ぬ。息子たちは畠をひっくりかえしてみる、
 あちらこちらと、いたるところを、丹念に。そこで、一年後には
 畠は例年より豊かな収入をもたらした。
 隠し金はなかったが、父親は賢明にも、
 死に先だって息子たちに教えたのだ、
 労働は宝であることを。

1990年に制作されたこの映画はフランスで大ヒットしたらしい。それはなぜか? そこにフランスという国のたどった歴史というものが色濃く反映されているということを、大嶋さんのレジュメと解説の中から少し知ることが出来た。
「五月革命(1968)」以前の伝統的な家族主義、父権絶対主義のような社会に対する郷愁をかきたてることと、舞台となった南仏プロヴァンスの自然あふれる豊かな大地、輝く緑が、現代社会に生きる人々に、強い影響を与えたものなのではないかと、今、自分の中で反芻してみている。

また、マルセルの父親に対する感覚みたいなもの、「強くあって欲しい、絶対であって欲しい」というのは、場面の中随所に感じられて、最初は奇異な感じをうけるぐらいだった。しかし、今、自分自身を振り返ってみた時に、中学時代頃から、父親に対する絶対意識を意識しだし、それに対して、不足感を持っていた記憶が蘇ってきた。


父が撃ち取った獲物を、誇らしげに、高く掲げるマルセル

映画の中では、やはり父親は絶対的な存在であって、その父親が伯父とのやりとりで揺れる様を見て、父親の権威を保とうとするマルセルの行動の中では、父親と伯父とが狩猟に出かけた時、父の放った鉄砲で見事2匹の獲物を仕留めた時、それを持って岩上に立って、高々と両手で掲げて見せるシーンが、僕には最も印象的なものだった。誇らしそうに‥‥

宗教の問題も、今回出てきていた。カトリックの伯父と父とのやりとりや、カトリックの神父さんとのやり取りのなかで、どこかしっくりといかないものを映画から感じた。

こんなふうに書いてきてみると、大嶋さんの紹介してくれる映画の観方として、いくつかの切り口から、映画を観てゆくということを、知らず知らずのうちに、学んできている気がしてくる。それを持って離さないというのでなくて、楽しみながら、そんな観点から観てみたらどうだろう?という軽いノリの感じとでもいったらいいのかな?そんなことを今回は感じてきている。次回が楽しみ。

(吉田順一)


記事は続きます>>>『マルセルの夏』--父の存在とは何だろう?


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