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次回の予定














『アステリクスとクレオパトラ』
のコミック本。ハードカバーの
装丁。この本を元に映画が製
作された。


オールカラーの読み物に
なっている。


























































































エジプトの市場に何故か日本人が。
観光でエジプト土産を買っている。





「帝国の逆襲」なんてシーンも。







「搾取反対」と労使交渉するエジプト
人労働者。36時間労働を35時間に
短縮しろと申し出る。
これはフランスの週35時間労働法
が発生源。

フランス流コミック、底流にある歴史文化  

わたしの映画レビュー『ミッション・クレオパトラ』(アラン・ジャバ監督・2002年・フランス)  いわたたかし

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 @



                講師の大嶋優さん(関西学院大学フランス語講師)

「フランスは言葉の国だ」

大嶋さんの解説によると、フランスのコメディは、アメリカや日本とは違うところがあるという。
「フランスには長い歴史があり、アメリカは歴史の浅い国でコメディのとらえ方も違います」
その違いについて話し始めた。
「漫画はバンドデシネと呼ばれるストーリー漫画とカリカチュアと呼ばれる一コマ漫画に大別される。一コマ漫画は、社会風刺、政治風刺がある。ストーリー漫画で有名なのは、『アステリクス』です」
立派なハードカバーの装丁で、日本で言えば、絵本のような作り。前頁オールカラーだ。
そして、大嶋さん、
「フランスは言葉の国だ」という。
「言葉をとても大事にしていて、漫画のセリフでも練りに練ってつくられている。そのため子どもでも大人でも楽しめる」と。
「アメリカのディズニーやポパイ、スヌーピーは言葉というより、動きや絵が中心です」

なるほど、アステリクスの本のコマ割りを見ると整然と並んでいる。日本の漫画では画面に変化をつけるために大きなマスをとったり、擬音や効果音を手描き文字で表現して視覚効果を狙っているが、それがない。基本はテキストであり、見せるより読ませる漫画のようだ。

「言葉を中心にした漫画は日本人からすると非常に難解です。言葉遊びが非常に多い。この映画も言葉が字幕に出るが、感覚がズレてしまう。字幕では面白みが伝わってこない」 という。
「言葉の違いが、日本でフランス漫画が流行らない理由ではないか」ともいう。
「『アステリクス』シリーズは、英語圏以外の国で大変売れている。全34巻で3億5000万部も出ている。この第6巻の『アステリクスとクレオパトラ』が今回の映画の元になった」

言葉をどれだけ重視しているか、
日本の「パナソニック」が「パナソニクス」に、「マチュー・カソヴィッツ」(映画監督)が「マチューカソヴィクス」として映画で扱われる。
「こういう言葉遊びですね。フランス一流の原点、喜劇、コメディの原点です」

映画の登場人物にも凝ったネーミングがされている。原作者のルネゴシニは家系が印刷業で、文字に対する執着があったそうだ。

エジプト人はイシス(女神)という文字が名前の最後に付けられている。名前の意味にキャラクターの性格を表している。
以下写真とそのキャプションでご覧いただきたい。


ニュメロビス(「〜番地の2号」という意味。建築家であるため)


アモンボフィス(「あ、わが義理の息子よ」という意味を縮めた言葉になっている)


オティス(「耳の」という意味。人のことをよく聞くキャラ)

ガリア人にはイクス(王様)という言葉がつけられている。
ガリア人といえば、フランスの最初の英雄「ヴェルサンジェトリクス」が有名なのは、この講座ではお馴染み。


アステリクス(星の王子)


オベリクス(疑句標=印刷用語、絶えず疑問を発するキャラ)


パノラミクス(パノラマ撮影から生まれた)


イデフィクス(犬)、固定観念、思い込みがあるという意味で、犬の性格を表す。

そして、映画のセリフに使われる様々な言葉が、有名な格言やことわざが織り込まれているとのことだった。

魔法の力で宮殿建設

映画は、紀元前50年のエジプトが舞台。我がままなクレオパトラが、シーザーの鼻を明かしてやろうと、砂漠のど真ん中にわずか3ヶ月で豪華な宮殿を建てる約束をする。シーザーがエジプト人を馬鹿にしたので、怒ったクレオパトラが、エジプト人がいかに偉大であるか、証明するための賭けとなった。この無理な計画を命じられるのが建築家のニュメロビスだ。彼は、フランス地方のガリア人を訪ね、魔法を使って建設の実現を図ろうとする。魔法の薬を調合できるのがパノラミクスで、お供にアステリクスとオベリクスがいる。3人のガリア人をエジプトに迎えて、工事はみるみると進んでいくという展開。

ニュメロビスのおバカで間抜けたキャラがいかにもコメディタッチ。字幕の日本語からでは到底理解できないフレンチギャクが頻発する。名言・格言、ことわざあり、パロディありとセリフもシーンも実に良く考えて造りこまれている。アップテンポな映像は、マトリックス的合成アクションや、踊りながら巨大岩石を軽々運んだり、魔法のパワーでスフィンクスを持ち上げたり、カンフー対決あり、アニメーションありと、飽きさせない。
日本人も着物姿でお目見えしたり、現代用語も飛び交い誰もが笑える傑作コメディと言えるだろう。

まだまだ奥がある笑い

しかし、そこは文化と歴史の国、いやプライドの国フランスだ。表面的な笑いだけを狙ってはいない。たぶん、その点を大嶋さんが指摘したのだろう。
あとで、「この映画、心底笑えましたか?」と念を押した質問をされた。
充分に楽しめましたと私は思ったが、大嶋さんの質問の意味は?
恐らく、フランス語を知っていたら、もっと文化や歴史に精通していたら、腹を抱えるほど笑えたのだと想像した。


漂流する海賊たちのワンシーンは、フランスの画家・ジェリコーの代表作『メデュース号の筏(いかだ)』のパロディだった。





たとば、海賊船が撃沈されて漂流するシーンが3回ある。
最後の映像は、フランスの画家ジェリコーの代表作『メデュース号の筏(いかだ)』のパロディだった。知っていたら思わず噴出したはず。

モナリザのポーズをとるクレオパトラ








エジプトの壁画は、人物など側面描写(横顔)が多い。クレオパトラが横顔を描く宮廷画家に「いつも横顔ね。正面から描いて」と注文をつける場面で、その時のポーズは「モナリザ」になっていた。クレオパトラが意識してポーズをとる仕草には、笑ってしまった。(特に指のポーズは意識的か? モナリザの手はまだ未完成という説もあり、ダビンチもこの手のポーズには苦労したという話も聞くくらいだから)
画家は「斬新すぎる」と首を横に振る。

エジプトの側面絵画に対するツッコミがこの他、建築現場でも、格闘シーンにもあり、何か、皮肉っているようで笑ってしまう。
一言一言、一場面一場面に、笑いを誘うツボがあるのだ。そのツボとはフランスの文化と歴史に裏打ちされたツボだ。

あるいは、フランス万歳!という賛美の声も聞こえてくる。
そもそも魔法を使って計画を実現できたのは、フランスのガリア人がいたからこそ。クレオパトラは「生粋のギリシャ人」として登場し、エジプト人、ローマ人とそれぞれの人種も出てくるが、どこか、エジプト人は小バカにされ、ローマ人は悪者扱いの印象を受けた。その点ガリア人はユーモラスで、パノラミクスは賢者扱いだ。

そのパノラミクスが「女王は性格はきついが鼻の形がいい」と言う。
クレオパトラの鼻といえば、パスカル(フランス人)の言葉、「クレオパトラの鼻がもう少し短(低)かったら、世界の顔(歴史)
が変わっていただろう」を思い出す。
差し詰め、賭けに勝ったクレオパトラは、シーザーの鼻をあかして、ますます鼻高々といったところだろう。


言葉遊びと知的ジョークがフランス流だというが、言葉の分からない私には、その深〜い笑いを想像するだけだった。しかしそこが思えたのは大嶋さん流だからこそ。 (いわた)

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次回の予定

12月17日
(土)夜19:00〜21:30。映画『ギャルソン』(1983年)

今回は、「これぞイヴ・モンタン」をご覧頂きます。クロード・ソテ監督、イヴ・モンタン主演の『ギャルソン』(1983年)です。

俳優を活かすも殺すも監督の度量次第。クロード・ソテはイヴ・モンタンの魅力を十分に心得ている。

ブラッスリーでギャルソンのチーフとして働くアレックス(イヴ・モンタン)。中年から初老への侘びしさを垣間見させながらも、楽天的性格、やさしさ、憎めないしたたかさで人生を楽しむ。「地でいけばいい」と監督は言っているような……映画です。

ギャルソンたちのきびきびした動きも見どころのひとつ。この活気、善かれ悪しかれパリのブラッスリーのものです、いや、ものだった。何しろアレックスは一服ふかして客のもとへさっと足を運ぶんですから。「去年の雪今はいずこ」でしょうか。

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